遺書

よく生きました。よく生きました。

素晴らしい人生でした。


でも私は素晴らしい人生に適合できなかった。息をしているだけで辛かった。悲しかった。心臓が動いているのが怖かった。頭が働いているのが怖かった。まあ途中から頭は使い物にならなくなったんだけど。


たくさん恋をした。自分にはないものが欲しかった。息苦しくなく生きている人の心臓の音を聴くのが大好きだった。羨ましかった。

皆つらいことや悩みを抱えて、乗り越えて、キラキラ輝いていた。生き生きしていた。

みんなちゃんと生きていた。羨ましかった。

私の周りには素晴らしい人間しかいなかった。みんな素敵だった。みんな美しかった。

ちゃんと心臓が動いて、息をしていた。苦しくなさそうに、それが当たり前みたいに、息をしていて、つらいことや悲しいことも抱えて、それでも笑って生きてて、それが羨ましかった。私には無いものだったから。

みんなみたいに苦しむことなく息を吸いこみたかった。つらいことや悲しいことを抱えていても、ちゃんと心臓動かして生きていきたかった。なんやかんや言ってみんなはちゃんと生きてる。しっかり生きてるよ。えらいよ。

私は誰の好意だって上手く受け取ることができなくて。他人の感性が分からなくて。生きてるのがつらかった。悩みがあるとかじゃなくて息をしているのがつらかった。私も皆みたいに普通に息を吸って心臓動かして、悩みや悲しいことも抱えて。憧れてたんだ。普通に息を吸って吐いて、心臓を動かしている人間に。

私の人生はそれはそれはとても恵まれていました。家族にも友達にも恋人にも。

病気になってしまったのはただの私の甘えなんです。精神病になりたかったんです。きっと。私だけの特別が欲しかったんです。

でも精神病は思ってた病気と違って、死ぬほどつらいのに死ねなくて、ああ、だからみんな自殺しちゃうんだなって思ったんです。

あのね、どれだけ勉強したってね、精神病の人の気持ちが分かるのは精神病の人だけだよ。治った人はもう違っちゃうんだよ。

死ぬほどつらいのに死ねない病気が精神病。覚えておいてね。

なんでオーバードーズするのかよく聞かれるけど自分で飲む量調整できないんだよ。

効いたって分かるまで飲み続けたいの。

ふわふわしたいの。現実から離れたいの。


こんなにも息がしづらい現実から。