母親

鬱が来ると、最近は母親のことをよく思い出す。

あんなにも逃げていた存在だったのに。

私も歳をとったという事なのだろうか。

染髪したことのない、艶のある綺麗な黒髪が素敵だった。

くせっ毛で艶消しをした自分の髪とは何もかもが違う。

空を見上げることが好きな人だった。

星や月、花火をこよなく愛でる人だった。

「今日は満月よ」と連絡が来る度にうざったいと思っていた。

「私は月の種族の人間だから、月を眺めてしまうの。」

と、度々言っていた。

これは彼女が好きだったアーティストの影響。

夜中に寝室で、意味もなく泣き出して父親に縋っていたのを覚えている。

隣の自室からよく覗いていた。

繊細な人だったのだろうと思う。

娘に依存して、自分がやりたくても出来なかったことを何もかも押し付けて、母親としては出来た人では無かったと思う。

裁縫も料理も音楽も、すべて彼女から教わった。

家庭的な人だったのは確かだ。

父親は亭主関白では無かったが、彼女が自ら進んで彼を亭主関白に仕立てあげていたかのように思う。

妻としては出来た人だったのかもしれない。

私が精神病に罹ったときも、理解してくれたのは母だけだった。

「薬を飲むな」と怒鳴る父親に対して母親は何も言わなかったけれど、後からこっそり彼女の飲んでいる精神薬を分けてくれたりもした。

私は母親にはなりたくないと思う。

私の母親のようになりたくないのではなくて、私が母親になりたくないのだ。

だってきっと、同じ事を繰り返してしまうから。